思い出のクッキー缶

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 そう忠告をして、叔母さんは部屋を出ていった。  叔母さんはとてもいい人だと思う。  もともとご近所同士だったというのもあって、小さい頃はよく叔母さんの家へ遊びに行っていた。叔母さんと叔父さんには子供がいないからか、姪っ子の私を実の娘のように可愛がってくれたものだった。  さらにお父さんを亡くしてからは、こうやって私の生活の面倒まで見てくれている。自他ともに認めるほど可愛いげのない私にここまでよくしてくれる叔母さん叔父さんには、感謝の言葉なんて言っても言い切れないくらいだろう。  ただ、一緒に住んでいると叔母さんには隠し事なんてできないみたいだった。 「お父さんの墓参り、か。行ってなかったなあ」  私はひとりごちた。お墓はこの家からでも歩いて行ける距離にある。だから叔母さんは月に一度ほど、お花を供えに行ってくれている。対して私は、去年のお盆に叔母さんと二人で行ったきりだった。  勉強机に座りながら、枕元に置いたままのクッキー缶を見る。結局、未だにあれを開けられずにいた。  お父さんのことを考えると、どうしようもなく心が掻き乱される。  お父さんは、仕事の途中で身体を壊してしまい、それからほどなくして亡くなった。  いま思えば、お父さんは働きすぎだった。それに加えて、少ない休みの合間を縫って私の相手をしてくれていたのだ。  もしかすると。  無理に私の相手なんかしなければ、お父さんはあんなにも早く亡くならずに済んだのかもしれない。それに元を正せば、私が生まれてさえこなければお母さんだって……。身体を壊すこともなく、きっと今も元気だったはずなんだ。  私は両親の命を奪ったあとも、こうやってのうのうと生きている。  その罪悪感が、どうしようもなく私を苦しめる。  もしも、定まった運命を逆さにすることができるのなら、私は喜んでそうするだろう。  ひっくり返したその先に、私なんかがいなくたって。  お父さんやお母さんがいるのならば。  きっと、みんなは幸せになれたはずなんだ。  ……ああ、まただ。あの暗い声が、心の底から浮かんできた。  声は、私にこう告げる。 『果たしてお前は、生きて過ごすに値する人間だったのか』と。 「いけない、いけない、いけない……!」  ぶんぶんと、かぶりを振った。  落ち着け。落ち着くんだ私!
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