思い出のクッキー缶

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 これじゃあ勉強どころじゃない。堂々巡りを頭の中で繰り返していたって仕方がないっていうのに。ちっとも集中できないじゃないか!  心を安定させるため、まず私はゆっくり深呼吸した。そして、小さくつぶやいた。 「あのときは誰が悪かったのか、誰が裁かれるべきだったのか。そんな終わったことをいくら考えたところで、世界の誰にも分かりっこない。それでも知りたいって言うんなら、神様にでも聞くしかないじゃない? はい。これでこの話はおしまい、おしまい!」  暗い感情にとらわれてしまったとき、私はこの言葉を唱えることにしている。  これは、以前に茜から聞かされたものだ。私が悩みごとを打ち明けたら、この言葉で一蹴されてしまった。遠慮知らずで向こう見ずの茜らしい意見だとつくづく思う。けれどこういうことをちゃんと言ってくれる友達っていうのは、本当にかけがえのないものだ。  唱えてしばらくしたら、心にすうっと涼風が吹いたような気がした。よし、落ち着いてきたぞ。ありがとう、茜。 「でも、なんか忘れてるような……?」  結局、私が夕御飯に手をつけたのはそれから三十分後のことだった。当然ながら、熱々だったうどんもすっかり冷めてしまっていた。  今日は久しぶりに学校へ登校した。  私の通う高校は、夏休み期間中になると受験生向けの課外授業を開く。それに参加するのだ。  ずっと家にこもりっぱなしというのはなかなか辛いものがある。だから、受験勉強とちょっとした気分転換とを兼ねて、というわけだ。  しかし教室へ来てはみたものの、周りにいるのは知らない生徒ばかりだった。ちょっぴり緊張はするけれど、これはこれでなかなか新鮮だ。  私が受ける科目は数学と化学、あと世界史だ。数学はもう大の苦手だし、化学はそもそも興味がまったく無い。私は根っからの文系人間だから、方程式がどうだとか化学記号がなんだとか、そういうのはちっとも向いていないのだった。だから苦手科目を中心に課外授業を受けたわけなんだけど、今日受ける世界史だけはちょっと事情が違う。
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