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「10年後また会おうね、きっとだよ」
甘い声が聞こえる。目を瞑れば柔らかな笑みで同意を問うように首を傾げる彼女の顔が思い出された。10歳だった彼女は20歳になっているはずだ。あの頃から10年後の世界に立っている。
夕方の電車の中でふと思い出して郷愁に耽っていた。まるで謀ったかのように、10年後の今日にだ。それでも、彼女とはもう長く連絡をとっていない。彼女は彼女で仕事をし、彼氏でもできているに違いない。そう思うと自然とため息が漏れた。
電車を降り、暗くなり始め、人々が影の亡霊のように見える中、ぼんやりと家に帰ろうとしていた。
「けいちゃん!」
突然、呼び止められた。振り向くと長い髪の女性のシルエットが手を振り近づいてくる。目を凝らしてみると、懐かしい面影のある顔だった。俺の心臓が高鳴る。
「久しぶり、千春」
彼女の笑い声が空気を震わせた。俺の胸を擽るようだった。彼女だ。俺は嬉しくて破顔する。
「今日、約束の日だったよね」
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