淡い記憶

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 彼女は消えた。  ある記憶が脳裏に過ぎる。俺が彼女と出会い、そしてお互い別れるときのことであった。とある病院の小児病棟で俺たちは出会い意気投合した。同じ病気で、手術を経験し、同じ年齢であることから仲良くなったのだ。別々の病院に移動となり、俺たちは病気に打ち勝ち10年後にまた会おうと約束していた。  彼女は死んだのだ。病気に勝てず。 「忘れていた」  頬を涙がつたい、地面に落ちた。  さっきまでの時間は何だったのか。彼女の亡霊と逢っていたのか、はたまた単なる俺の妄想か。  何にせよ俺は彼女に逢いたがっていたのだ。  記憶は淡い。良いことはそのままに、改竄(かいざん)する。いつか淡い記憶と成り果て彼女の全てを忘れてしまうのだろうか。  気づくと俺は彼女の墓の前にいた。
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