第1章

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「濡れてる?」  俺は外に出たとはいえ、マンションの通路に出ただけだ。雨の降る、マンションの外に行ったわけじゃない。雨に濡れたわけじゃない。  居間に行くと、水で濡れていた。子供がホースではしゃいだかのように、テーブルに置いた雑誌や、チップスの袋まで濡れている。というか、テレビにまで水が。 「ど、どういうことだよ」  困惑し、とりあえず、テレビなどをすぐにふかないと、風呂場に行ってバスタオルを取ってきて、それでふいた。というか、家電だけじゃなく、他も濡れてるから一枚じゃ足りない。俺は全部持ってこようと再度風呂場に行くがジャャァァァァと、蛇口がひねられ、バスタブからお湯が溢れていた。お湯は排水溝におさまりきらないのか、どういうわけか、脱衣場まで流れ、廊下まで溢れる。 「な、何だよこれ」  逃げるように廊下に行くと、今度は風呂場からだけじゃなく、トイレや、どういうわけかベランダや玄関の方からも水が迫っている。玄関のドアを開けようとしても鍵が開かず、びくともしない。窓ガラスは壊そうとしても傷ひとつつかず、まるで水槽のように部屋は水がたまっていき「た、助けてくれ。な、何だよこれ。どうして、こんなことに」そのとき、窓ガラスの向こうにあの女が見えた。彼女は長い黒髪を上げると、満足そうな笑みで俺を凝視する。 (了)
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