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『このクラスには、イジメはないと信じている・・・人間として誤った行動をする生徒はいない。私のクラスには居ないと願っています・・・』
さっきまで騒がしかった教室が、水を打ったように静かになった。
これは明らかにイジメが存在している証拠だと甲本は直感した。
『君達の将来にもイジメは影響するんだ。みんなで仲良く、力を合わせながら青春を送って欲しい』
青春というひと言に、至る所で笑いが起こっていた。
甲本は教卓を叩いて言った。
強い口調で。
『何がおかしいんだ! 笑うとこじゃないだろ!』
ちずるの挑戦的な声がした。
『はぁ!? 何言ってんの! あ、先生あたし達を脅してんの!? バンバンうるさいし!』
甲本はちずるに詰め寄った。
席に座ったまま、甲本を睨みつけるちずるの手が腕に伸びた。
その瞬間、ちずるは悲鳴をあげた。
『ちょっとせんせい!やめてください!やめてください・・・お願いします。こわい、こわい、許してください!』
ちずるは甲本の手を、自分の胸に押し当てながら叫んでいた。
『な・・・』
あまりの想定外な出来事に、甲本は言葉を失った。
周りの生徒達も悲鳴をあげている。
我に返った甲本は、ちずるの手を払い除けた。
背後の生徒数人が、笑いながらちずるに言った。
その言葉に、甲本は呆然とした。
『送信完了!』
青ざめた甲本を、上目遣いに眺めるちずるの顔はにやけていた。
『はい。センセイの人生おっつー!』
その声すらも聞こえなかった。
数日後、甲本は教師を辞めた。
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