東京難民

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東京都新島村式根島。 伊豆諸島にある式根島の民宿で、栗原ケイはひとり、ノートパソコンの画面を見入っていた。 年老いた両親が営むこの宿は、年々客足が伸び悩み廃業寸前だった。 今では生活保護を受けながら細々と暮らしている。 ケイは元々、東京の紡績会社で事務職として働いていた。 バブル景気に湧いた年に親のツテで入社して、30年間勤務した後で依願退職を余儀なくされた。 というのも、国民総背番号制度により副業がバレてしまったのだ。 ケイは覚悟していたが、退社にまで追いやられるとは夢にも思わなかった。 同期の総合職で入社した仲間達は、皆知らんぷりをしていた。 『社則違反は重罪』 そう言葉を投げかけられた。 今年で50歳を迎える自分が情けなくて、しかしどうすることも出来ないまま時間だけが過ぎて行った。 結婚もしていない。 彼氏もいない。 『自分の人生はこのちいさな島で終わる・・・』 淋しさだけが募っていった。 東京事象をニュースで見た時、ケイは内心。 『ざまあみろ』 と思っていた。 会社や仲間に見捨てられ、国民総背番号制度のお陰で人生を台無しにされた恨みは蓄積されたままだったのだ。
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