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そのとき、声が聞こえた。
「レイ。聞きなさい」
突然の声に令ははっとする。そして首からかけたネックレスをシャツの首元から引っ張り出し、そのペンダントヘッドを掌に乗せた。
言葉を話すようになった頃から常に、肌身離さずにつけているペンダントだ。
掌に乗せたペンダントヘッドは、小さなどんぐりだった。開と凛も、同じように首に掛けたネックレスのどんぐりを取り出した。
「レイ、聞きなさい」
もう一度、声が聞こえた。声は令の掌に乗るどんぐりから発せられているのだった。開と凛のどんぐりからも、同じ声が発せられている。
「先生、俺、とうとう本物の蟻を見たよ」
令がどんぐりに向かって話す。
「望みがかなったんだね。いいことだ。ただやはり、少し危険だった。生物学を学ぶ君なら、それはわかっているね」
令が言葉に詰まり、口をつぐむ。
「この地域に住む蟻は、非常に社会性が強い種類だ。したがって群れ全体が行動しているときに個体単独での攻撃行動はないと考えていい。
君はそれを知っており、だからこの場所が群れの進行方向だとわかってからも、離れることをしなかった。そうだね?」
令は少し唇を尖らせて、小さく「はい」と答える。
「正しい判断だ。しかし、それは避難行動がそれしかない場合のみに、許される行為でもある。わかるかい」
令が俯いて、また小さく答える。
「・・・・・・はい」
「君は、蟻の社会性がどれほど高度でも、個体がそれに反する行動を取る場合があり得る、ということも知っている。
つまり、君たちの真横を通り過ぎたあの蟻が突然君たちを攻撃するという可能性は、限りなくゼロに近いがゼロではない、と知っていたにもかかわらず、君は優先するべき避難行動を採らずにカイとリンを危険に晒した」
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