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「来てよかったあ。蟻って、あんなにすごいものだと知らなかった」
凛が屈んで、開いたままになっている弁当容器を片づけながらはしゃいだ声を出した。
「カイ、また来ようよ。レポートやってからだけどね」
開、令と同じく、凛もまたレポートに追われているのだ。
よし、とつぶやいて凛が立ち上がる。バッグを肩に掛けてデニムのお尻をぱんぱんとはたいた。
「帰るよ。カイ、レイ」
凛の言葉をきっかけにして、三人は来た道を戻り始めた。
まだ暗くなる時間ではなかったが、空気はすでに日中の最高気温を過ぎてゆっくりと下がりはじめている。山はすでに夜の準備をはじめていた。
細い山道には街灯はもちろん、灯りとなるような設備は一切つけられていない。やはり、安心のうちに山を下るにはこの時間が一番よかったのだ。
あのとき無理に伐採現場まで行っていたら、帰りは暗闇の中で懐中電灯の光だけを頼りにしながら不安の中で歩くことになっていただろう。
目の前で見た蟻についてその生態や社会性の感想を話し合いながら歩く令と凛のうしろで、開は改めて先生の正しさを実感していた。
「ああ、集会場の図書室、はやく全部見させてくれないかなあ。そうしたら、もっと蟻のことも調べられるのに」
凛と並んで歩きながら、わざとらしい口調で令が言う。先生が聞いているかもしれないと知っていての、ちょっとした皮肉だ。
「そうだね。私も早く見たいなあ。あとどれくらい待てばいいのかな。せめて、いつ見せてくれるか教えてくれればいいのにね」
凛も、令の皮肉に気がついてわざとらしく話を合わせる。
集会場とは、三人が学校代わりに時折通う施設のことだ。
そこには、読み切れないほどの本が収蔵されていると聞いているが、三人はまだそれを見たことがない。
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