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「兄さん、伐採機を見たいって、前からいってたね」
つぶやきながら、令はため息をつく。
「あの音は、まずいなあ」
令のつぶやきは、開の耳には入っていなかった。そうだ、こんなことで先生は叱りはしない。
「よし、レイ、僕も行く。準備してくるよ」
草履で土間の奥に駆け込む開を眺めながら、令はまたため息をつく。
自分でいいはじめたことだから仕方がないが、まさか兄がいっしょに来ることになるとは思ってはいなかった。もう一度ため息をつきながら、令は重低音を響かせ続ける音の方角を見つめた。
着の身着のままで出かけようとしていた令も、開の様子から伐採現場まで行くことになるかもしれないと思い直し、それなりの身支度を整えた。
長袖の厚手のトレーナーとジーンズ、そして底のしっかりとした靴。懐中電灯などを入れたバッグを肩にかける。開も同じような服装と装備を整えていた。
ふたりは家から続く坂道を下り、広がる田畑を横切る細い農道を歩きながら、まだ食べていなかった昼食をとった。
急いで作った握り飯だ。まだ暖かい握り飯を頬張りながら、予定とは違うけど伐採機を見るのも悪くはないかなと、令も思いはじめていた。
田畑を過ぎ、農道が山の麓に差しかかると、空気がわずかに冷えはじめて緑の匂いが強くなった。
やがて道はふたつに分かれる。ひとつは山の麓をぐるりと回る道。もうひとつはこれから向かう、山へと入る道だ。
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