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大きな樹木に囲まれ、湿り気を帯びた落ち葉や枯れ枝に埋もれた細くなだらかな上り坂を三十分も歩いた頃だろうか、目の前の視界が突然開けた。樹木の並びがそこで途切れ、大きな広場になっている。
数年ごとに行われる森林伐採の、前回の現場だった。
山の緩やかな斜面から樹木がなくなり、ひざ上のあたりまで伸びた雑草が野球場ほどの面積一面に生えて、風に柔らかな緑色の穂先を揺らしていた。
凛が草原の中に走っていく。
「わあ、気持ちのいい場所」
両手を広げてくるりと回りながら大きな声でいった。
「さあ、野原へ行こう!」
開と令も、草原に足を踏み入れる。
「なに、それ」
令が草の間を歩きながら聞いた。
「聖書の中のセリフだよ。カインとアベル。この前の先生の講義、聴いてなかったの?」
「ふうん」
さして興味もなさそうに令がつぶやく。生き物以外にはあまり関心がない令は、その講習もまじめには聴いていなかったようだ。
「天国って、きっとこんな場所なんだよね」
凛がつぶやく。顔を上げて、手を広げたまま大きく深呼吸をした。
「天国って、もっとなんというか、華やかな場所って感じがしない? リンゴとか実ってたりするし」
開も凛の横に立ち、いっしょになって深呼吸をした。
「僕は、浄土というイメージかな。物静かで落ち着くという意味で」
山の上方から、ごーんという伐採機の重低音が聞こえてきた。
その音に、凛と開は顔を見合わせる。
「天国や浄土にあんな音はしないよね」
笑いながら凛は、肩にかけたバッグを手に取った。
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