結婚しないの?

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「帰ろう、沙耶」  言って立ち上がる。これ以上、ここで話を続ける気にはなれなかった。  伝票に手を伸ばそうとすると、 「いいわよ」  円に止められた。 「呼び出したのはこっちだから」  綺麗に微笑まれ、またいろんな葛藤が胸中をかけめぐったが、 「ごちそうさまです」  かろうじて、それだけ口にすると、逃げるように店から出る。 「あ、ちょっと、龍一」  残された沙耶は慌てて立ち上がり、 「えっと、あんまりいじめないであげてください」  姉二人に向って頭をさげる。 「それじゃあ、また、連絡するね。ごちそうさま」  荷物を持つと、龍一のあとを追った。 「あらやだ」  二人が出て行くのを見送った後、 「いじめてるように思われてたみたい」  心外だわーと円が呟く。 「心配してるのに」 「ねぇ?」 「しかし、龍はいまいちはっきりしないな」  と雅がぼやいたところで、彼女のケータイが鳴る。 「お、噂の愚弟からだ」 「あら、なぁに?」 「話はわかったけど、仮に納得したところであんたらのいる前でプロポーズとか絶対しないからな! だそうだ」 「あら」  円は楽しそうに笑うと、 「意外と、うまく刺さったのかしら?」  同じような顔をした雅と、思った以上にうまくいった首尾に共犯者同士頷きあった。
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