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「龍一」
店から少し離れたところで、ケータイをいじっていた龍一に声をかける。振り返った彼は、思っていたよりも怒ったような顔をしていなくて安心した。
「ねぇ」
「沙耶は?」
話しかけようとしたところを遮られる。
「沙耶は、どう思った? さっきの話」
「どうって、あたしは、別に……」
どっちでもいい、という言葉を言いかけて、慌てて飲み込んだ。その通りなんだけど、これじゃあ誤解を与える。
「ちょっとだけ待って。今、まとめる」
自分の考えを口にするのが、あまり得意ではない。彼といるようになって、そう気付いた。今までは、聡過ぎる姉と兄が察してくれていたから気がつかなかった。
「ん」
彼はちゃんと、自分が言葉にできるまで待っていてくれる。
自分の中で一度考えを整理すると、
「あのね」
彼をまっすぐ見て話を切り出す。
「正直、自分の人生に結婚とかが入り込んでくるなんて想定してなくて……。こうして龍一と付き合ってなんだかんだ四年も経っていること、今でもやっぱりどっか他人事っていうか、実感がわかなくて。今の状態も、あたしからしたら怖いぐらい幸せだから」
そう思う一方で、
「あと、金銭的な話は別に全然問題じゃないな、って思う。龍一が気にするのもわからなくもないけど、別に気にしなくていいよっていうのは、思う。年上だからとかそういうのじゃなくって、好きだから。一緒にいられるなら、そこはネックにならないかなって。そんな風にいろいろ考えたら、あたしには選べないなって思う。円姉たちのはやくっていうのはよくわかんないけど、どっちにしてもあたしは幸せだろうなって思うから」
待たされてるという感覚がよくわからない。結婚を身近に捉えられない。それでも、
「だけど、もしも結婚するのならば、あなたとがいい」
ちょっと照れ臭かったけれど、はっきりと言葉にして伝える。
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