真夜中の道

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あれは新月の夜だった。暗い夜道を一人で歩いていた。足音が広い路地に反響する。こつ、こつ。誰も追いかけて来るような気配もないし、僕一人であることは確かだった。 まばらな街灯の灯りと、間を埋め尽くす陰気な暗がりが現実感を失わせていたのかも知れない。言って見れば僕は異空間にいるような感じだった。 その時だ。 僕の前方に背の高い白い女が立っているのが見えた。真夜中だ。白い服? それでも歩を進めたのはたぶん現実感の倒錯だ。 背の高い女だった。ちょうど首から上が、すぐ傍の壁を超えていた。 僕は壁を何気なく見た。背筋を恐怖が走った。そして慌てて踵を返した。もう振り返るつもりは無かった。高級住宅街。壁の高さは3mを超えていたのだ。
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