純愛レビレート

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えている。今さら、会社を継ぐことは無いだろう。かといって、未亡人の海音も、県下で唯一のプロ・オーケストラでオーボエ奏者の席を占めている。今まで、商売のことには全く関与してこなかった。先代社長である、故人の母親か、弟の勝翔が会社を引き継がねばならないことになる。  勝翔は、会社の後継者のことには、あえて思いを向けぬようにしていた。楽器店の店員兼、楽器店が運営する音楽教室のピアノ講師として、二十万ばかりの給与を得ている。周りからは、好きなことをしている自由人と思われていることは、充分に承知している。家賃も食費も、特に家に入れているわけではなく、自宅住まいを続けている。家を出たのは、東京にある私立音大に通っていた四年間だけだ。演奏者になることも、音楽教師になることもなく、帰ってきた。     
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