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「君の口座に五千万円を振り込もう。それで何とか矛を収めてもらえないか」
土井は縋り付くような目を向けた。
「どうだろう? 悪い話じゃないと思うが……」
「無理ですね」
「それでは七千万円でどうだ? ……も、もちろん、僕は潔白だ。でも、そんな噂が立つと会社としては成り立たなくなる。潰れるしかなくなるんだよ。会社というものは噂一つで傾くものだからね……」
「金の問題ではないと言っているんですよ。もしあなたの買収に屈したなんてことになると、徳永早苗さんは僕を許してはくれないでしょう」
「ハハハ……まだ言っているのかね……そんなのは口実にすぎない。そんなことが分からない僕だとでも思うのかい」
「嘘じゃないですよ!」
「君の要求額をズバリ言ってくれたまえ。それに応じられるかどうかは分からないが、最大限努力しよう」
土井はニヤリと笑いながら俺の顔を見つめたが、俺は次第に腹が立ってきた。
「あなたは僕が嘘を言っていると思っておられるのですね? 金が欲しいためにそんな話をでっち上げたと?」
「そうじゃあないのかね、ハハハ、何が幽霊だ! そんなことを僕が信じるとでも思っているのかい」
土井はヘビのような目を向けて俺を睨んだ。「君の要求額を言えば応じると言っているんだ。悪い話じゃないだろう?」土井はなおも鋭い目を向けたが、この男はきっとあとで俺を殺すつもりだと直感した。金を掴んで安心させたところで、事故を装って殺そうとしている。そんな殺気をハッキリと感じた。
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