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第 二 章 幽 霊 の 正 体
五郎の妹の亜美がやっている店に辿り着いたのは看板間近い十時になった頃だ。亜美は二十七歳でまだ独身だが、親の稼業である食堂を継いで切り盛りしている。だが、どうやら亜美は超常現象に詳しいらしいので、ここは亜美の意見も聞く方がいいだろうということになった。それに、五郎の話では、亜美はどうやら俺のことが好きらしいのだ。
「よく分かんないけど、あいつは恐らくお前に惚れてるよ」
「ホントかよう」
「兄としての勘だ。間違いないだろう……」
「ハハハ……何しろ、頼りねえ兄貴だからなあ」
二人は腹を抱えた。
亜美はかなりデブだった。だから、これまで恋愛対象として見たことはなかったが、そんなことを聞くと、嫌でも意識してしまう。ザッグバランな性格のようだが、店に着くとちょうど看板になったので、三人だけで乾杯し、俺は早速その件を相談した。
「ビールとおつまみ用意するわ」亜美はせっせと動いたが、相変わらず働き者だ。俺の話を聞きながら、時々熱い眼差しを投げかけてくるが、どうやら五郎の話は本当らしいと分かった。だが、俺はまだ西崎香奈枝への思いを捨てられずにいて、いつの日にも恋の道は過酷のようだ。思う人には思われず、思わぬ人に思われるのだ。
「それはかなり興味深い事例ね?」
亜美がニヤリと笑いながら言うので、「そう思うかい」と聞くと、うんと頷く。「でも、悪い怨霊ではないようよ」と答えた。「そうだろうか」と俺は希望を繋いだが、正直言って完全にびびっていた。そんな俺に亜美は意外な話を始める。
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