5人が本棚に入れています
本棚に追加
「幽霊、幽霊と一口にいうけれど、実際は色んな幽霊がいるんよ」
「ほほう……」
「お前は幽霊評論家か」
五郎のジョークに笑い転げたが、亜美の弁舌は益々冴えてくる。
「抑々、本当に怖い霊っていうのは例外的で、多くの霊には特に怖さはないものなの。怖いと思うのは人の被害妄想ってことよ」
亜美はそう言うとビールを旨そうに飲み干した。そんな亜美のふくよかな顔を見ながら、もう少し痩せれば案外いい女かもしれないと、密かに考えていた。どんなに美人に生まれても、肥満するとその美貌は半減してしまう。だから、あと十キロ痩せれば考えてもいいだろう。
「霊が現れるのは、その人に何かを伝えたいから。だから、マーちゃんに何か伝えたいことがあったのかもよ。これまでに会ったという記憶はないの?」
亜美は俺のことを五郎と同様にマーちゃんと呼ぶ。
「まったくない。あれから何度か考えてみたんだけど、やっぱり覚えがないんだよなあ?」
「きっと、マーちゃんと関係のある人だと思うよ。そのうちに分かるかもね……」
「ホントかよう?」
俺は茫然としていたが、「仕事上での関係者じゃないのか」と五郎が聞いた。だが、まったく思い当たらない。
「幽霊に遭ったタクシー運転手みたいに、一、二年で死ぬということはないってことかい?」
蒼ざめた顔で亜美の顔を見ると、「それは分からないよ。フフフ……もしかしたら、そんな運命かもしれないわね……」と言ったので、一層びくついた。「でも、疲労し切っているようには見えないわね?」と亜美。
最初のコメントを投稿しよう!