第 二 章 幽 霊 の 正 体

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一瞬「しめた!」と思い、脳裏には西崎香奈枝の顔が浮かんでいた。もしあの女性が守護霊になってくれれば、場合によっては香奈枝の心を得られる可能性があるということではないか。そういえば、田舎の方では「座敷童(わらし)」という子供の幽霊がいて、その霊に会うと幸運が舞い込むと言われている。芸能人や実業家の中には、そのときから「運」が開けたという話がワンサとあるのだ。何しろ、あの京セラの伝説の経営者稲森和夫氏が座敷童に会ってから運が開けたという有名な話さえある。 「でも、守護霊っていうのは先祖の霊じゃねえのか」  五郎が妹に聞いたが、「そんな説もあるけど、必ずしもそうじゃないのよ。生まれた時期や季節によって所定の霊が付くという説もあるし、当人の行いによって良い霊が付くという説だってあるわ。いずれにせよ、良い行いをすれば良い守護霊が付くというのは、きっと真理だと思う」と、亜美が答える。やはり、亜美は兄貴よりも頭の程度は数段上のようで、見るからにしっかりしていた。  その言葉だけ聞いてもそれが分かる。 その点、五郎はただ目立ちたがり屋だというだけで、演技力だって今一歩なのだ。それでも、「役者は天職だと思っている」と偉そうなことを言う。「何が天職だ。お前は早く『転職』した方がいいんだよ」と、俺はいつもアドバイスしていた。 それにしても、その丸々とした顔を見ながら、この女は何て詳しいんだと感心した。これで容姿がもう少しよければ……。俺はまたもそんなことを思っていた。
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