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もしかして、この女性もそのすぐ近くに住んでいて、それで俺の顔を知っていたのか。そんなことを推測したが、女はやはり一切口を開こうとしない。
――どこで会ったのだろう……。
そんなことを考えていたが、思い出せなかった。でも、きっと昔から知っている女性なのだ。余程名前を聞こうかと思ったが、聞けなかった。そうこうするうちに保健所の前に着いたので、「七百二十円です」と、俺は振り向きながら言った。だが、後部座席には女の姿はなく、俺は「ヒヤー!」と激烈な悲鳴を発していた。そして、余りの恐怖にパッと目が開いた。
布団の中から身を起こしたが、しばらくは凍り付いたままだった。確かに「あの女だ……」と呟いていたが、これで三度目だ。いや、声も入れると四回目か。どういうことなんだと震えたが、これはいよいよヤバイと感じた。「幽霊を乗せたタクシードライバーは、それから一、二年で亡くなることが多いらしいよ」という五郎の声が耳に蘇る。
――どうしよう? どうしたらいいんだ……。
これはいよいよヤバくなってきたと感じていた。まるで真綿で首を絞められるようで、俺はこのまま怨霊に取り憑かれて死ぬ運命なのかと、心底凍り付いていた。
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