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いったい何なんだ……。しばらくの間、体を硬直させていた。
するとまた聞こえた。――本庄正男よ、よく聞け。お前に頼みたいことがある――そんな声がまた耳に響いた。今度はマジで震えたが、それっきり声は聞こえなくなった。その間、水は流れっ放しだったので、ようやく蛇口を捻って止めた。
俺はマジで震え上がっていた。なぜそんな声が聞こえたのか。それが分からなかった。
だが、それだけでは終わらなかった。その二日後に、その女性の霊は夢の中に出てきた。あれがきっと「夢枕に立つ」ということなのだろう。俺はベッドではなくいつも布団で寝ているが、それは独り身のため万年床のように敷かれたままだ。疲れるとそこに倒れ込んで音楽を聴く。イヤホンで聴くのだが、そのうちに眠ってしまっている。それが疲労回復の特効薬となっているのだ。
その女性はその万年床に眠る俺の横に正座していて、何事かを話していた。俺はそれを夢現の状態で聞いている。その女性が何を言っているのかは分からなかったが、話し終わったあとで、俺に低く頭を下げたのだ。
その表情は何だか悲しそうだった。
「ウワッ!」
余りの恐怖に俺は思わず飛び起きていたが、その女性は消えていた。だが流石にそれからは眠れなかった。――確かに縋り付いてきている。そんな思いに何度か身が震えたが、多少とも救いだったのは、俺に祟ろうというような雰囲気ではなかったことだ。
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