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俺はその新聞コピーにも目を通していった。「それじゃあ、ここに自動車事故で亡くなったと書かれている太田という男も、詐欺を行った仲間なのかい?」亜美は頷いたが、余りの驚きに目を剥いていた。でも、これで警察も必ず動くという自信を持った。
それから、二人は旨い料理に舌鼓を打ちながらしばらく談笑する。俺は亜美との新生活を心の中で描いていたが、男にとって何が幸せだといって、自分を愛してくれる女と結婚することほど幸せなことはない筈だ。その点、亜美と結婚すれば、きっと生涯俺のために尽くしてくれるだろう。
だが、香奈枝と結婚した場合はどうだろうか。香奈枝は自分のために人生を捧げてくれるだろうか。残門ながら、その可能性は限りなく低いように思われた。あれから、香奈枝はメールもしてこなかったが、きっと約束自体を忘れているのだ。正直泣きたかったが、香奈枝にとって、俺は所詮その程度の存在だということなのだろう。
その代わり、神は亜美という女性を与えてくださった。そう思うとマジで嬉しかった。
あの香奈枝が自分のためにわざわざ神戸にまで足を運んでくれるだろうか。そして、こんなにきっちりと調べてくれるだろうか。確かに香奈枝も頭のいい女であることは間違いない。だけど、ここまでしてくれる可能性は残念ながらゼロだった。
二人はそれからナイトクラブに行ってお酒を飲んだが、薄暗い場所で飲むと、亜美も一層美しく見える。ジャズが流れていたが、フロアーでは踊っているカップルもいる。
これで徳永早苗の無念も晴らせそうだと思うと、無償に嬉しかった。――女の執念岩をも通す――という言葉を思い出したが、早苗は死んでからも、きっと、その恨みを忘れることができなかったのだ。それで、俺を使って土井を社会的に葬り去るだけの資料を集めさせた。それによって、土井に報復するつもりなのだろう。俺は亜美のふくよかな体を抱いて踊りながら、どうしても土井と会う必要があると考えていた。
その夜も亜美と別れの口づけを交わしたが、亜美はなぜか俺の体に顔を埋めて泣いていた。そんな亜美が堪らなく愛しく思えたが、俺はそんな亜美を抱きながら思わず貰い泣きしていた。
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