第 九 章 対 決 そ し て プ ロ ポ ー ズ

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 土井の報復を恐れていたが、幸いそれはなかった。そして、それから間もなく、警察は土井を詐欺及び殺人教唆の疑いで逮捕した。そのニュースに接したときには正直言ってホッとしたが、これでやっと徳永早苗との約束を果たせたと思った。  検察庁はそれから一週間後に土井一郎を起訴したが、それからは法廷闘争へと突入することとなった。あれからは早苗の幽霊は現れていないが、これでやっと終わったようだ。何とか早苗の期待に応えることができたのだ。  そして二か月が経過したが、その日、土井は車に乗って千葉の海岸線を走っていた。商談からの帰り道だったが、土井は多額の保釈金を積んで保釈されていたのだ。そして、政治家などの人脈をフルに使って無罪を勝ち取ろうとしていた。  その計画は着々と進み、富士開発は何とか存続を図れそうになっていた。土井は内心ホッとしていたが、何としても立て直してやるという強い気持ちが体を支配していた。そのとき、車の前方に一人の女の姿が目に入った。女は道路の真ん中に立っていたので、急いで警笛を鳴らし、車のスピードを緩めた。  だが、女はまったく動く気配を見せない。近づいてヘッドライトが女の顔を捉えたが、そのとき、土井はゾッと震えた。それは何とあの徳永早苗で、もうとっくに亡くなった筈の早苗が、髪を振り乱してそこに立っていた。土井は極限の恐怖に慄いたが、早苗はじっと立ったままだ。  早苗の長い髪が風に激しく揺れている。誰かの悪戯ではないかと土井は目を細めたが、そのとき、早苗の姿はスーと消えた。
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