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季節はもうすっかり晩秋となり、木々の葉が美しく紅葉して道路を彩っていた。そんな晩秋の肌寒い風を受けながら、俺は歩いた。
西崎香奈枝は予想通り、大里との不倫が破局し会社をやめた。俺は香奈枝のマンションを訪ねて二人で会い、近くのレストランで話をした。
香奈枝はじっと俯いたままだ。
「男というものは、どうしても家庭を捨てることができないものなんだ。子供がいなければ、きっと大里さんは君を選んだだろうが、子供さんが二人もいる家庭を捨てるなんて誰もできない。それほど、男というやつは子供が可愛いんだよ。僕が大里さんの立場だって、子供を選んだと思う」
「……」
「僕では駄目かい」
俺はストレートに切り出した。香奈枝の美しさに心から参っていたから、ここで何とか自分の物にしたかったのだ。だが、香奈枝の返事は残酷だった。
「ご免なさい。正男さんのことは好きだけど、正直言って結婚したいとまでは思っていないの」
その一言はまるで心臓を抉られるほどの衝撃があったが、俺は黙って俯いていた。これまで、どこに行ってもイケメンだと言われた俺だが、今回だけは見事に振られたようだ。
それから、二人は別れたが、香奈枝は間もなく単身アメリカへと旅立った。もう一度アメリカでやり直したいとのことだった。
西崎香奈枝に振られたショックは二週間近く続いた。食事がなかなか喉を通らず、酒に溺れる毎日だ。
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