小さな望み

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―――憧れだった。 高校生の頃、私の作ったお弁当を、彼氏と一緒に学校の屋上で食べるのが。 玉子焼き焦げちゃったけどごめんね、とか、 味は悪くないよ、とか、 ふりかけでハート描くのはやめろよ、とか、 恥ずかしがらなくてもいいじゃない、とか、 馬鹿馬鹿しいほどに分かりやすい恋の時間を、一度でいいから過ごしてみたかった。 ファーストキスの彼とは、実はちゃんと付き合ってたわけじゃない。 彼には本命の彼女がいて、私はそれを知らなかった。 学校の帰り道、たまたま一緒になって不意にキスをされたのだ。 【好き】とも【付き合って】とも言われてないけど、キスはその意思表示だとすっかり思い込んでいた。 以前から【いいな】と思っていた、その彼と付き合える事に嬉しくて舞い上がっていたら、 ある日突然、数名の女子グループに私は囲まれた。 《てめえ、ひとの男に手ぇ出してんじゃねえよ!》 彼女たちは、自分の容姿に自信を持ちつつ、外づらもいい。 でも、ほとんどの女子生徒は、彼女らの裏の顔を知っていた。 私のファーストキスを奪った彼の交際相手が、実はそのグループの中の一人だったと、その時に初めて知った。 彼と彼女は、そのころ痴話喧嘩の真っ最中だったらしく、彼女への当て付けのためだけに、彼は、なんの気もない私にキスをした。 グループの誰かが目撃するタイミングを見計らって。 当然、責められた。 私だけが。 彼に言い寄ったのが私だと、キスをねだったのも私だと、事実をねじ曲げられていたから。 誤解の解けないまま、暫く私は何かしらの嫌がらせを受けていた。 それなのに、私を利用した彼とその彼女は、ちゃっかりとラブラブに戻っていて、私の心は深く深く傷ついた。 思い出したくもない、辛い過去。 好きな人に、お弁当を作ってあげられる日なんて、私には一生こないんだ。 そう思っていた。  
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