690人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
―――憧れだった。
高校生の頃、私の作ったお弁当を、彼氏と一緒に学校の屋上で食べるのが。
玉子焼き焦げちゃったけどごめんね、とか、
味は悪くないよ、とか、
ふりかけでハート描くのはやめろよ、とか、
恥ずかしがらなくてもいいじゃない、とか、
馬鹿馬鹿しいほどに分かりやすい恋の時間を、一度でいいから過ごしてみたかった。
ファーストキスの彼とは、実はちゃんと付き合ってたわけじゃない。
彼には本命の彼女がいて、私はそれを知らなかった。
学校の帰り道、たまたま一緒になって不意にキスをされたのだ。
【好き】とも【付き合って】とも言われてないけど、キスはその意思表示だとすっかり思い込んでいた。
以前から【いいな】と思っていた、その彼と付き合える事に嬉しくて舞い上がっていたら、
ある日突然、数名の女子グループに私は囲まれた。
《てめえ、ひとの男に手ぇ出してんじゃねえよ!》
彼女たちは、自分の容姿に自信を持ちつつ、外づらもいい。
でも、ほとんどの女子生徒は、彼女らの裏の顔を知っていた。
私のファーストキスを奪った彼の交際相手が、実はそのグループの中の一人だったと、その時に初めて知った。
彼と彼女は、そのころ痴話喧嘩の真っ最中だったらしく、彼女への当て付けのためだけに、彼は、なんの気もない私にキスをした。
グループの誰かが目撃するタイミングを見計らって。
当然、責められた。
私だけが。
彼に言い寄ったのが私だと、キスをねだったのも私だと、事実をねじ曲げられていたから。
誤解の解けないまま、暫く私は何かしらの嫌がらせを受けていた。
それなのに、私を利用した彼とその彼女は、ちゃっかりとラブラブに戻っていて、私の心は深く深く傷ついた。
思い出したくもない、辛い過去。
好きな人に、お弁当を作ってあげられる日なんて、私には一生こないんだ。
そう思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!