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昼休みは、会社近くの公園のベンチで、凛子と二人で昼食をとるのが当たり前になっていた。
「これさぁ、ほんとはあたし用じゃないんじゃないの?」
凛子は、箸でつまんだタコさんウインナーを空中で泳がせながら言った。
「凛子にだよ。他に誰がいるの」
彼女の台詞は想定内。
「お・と・こ」
言うと思った。
「どこの男よ。私いま彼氏もいないのに」
最近まで処女だったことや、最近になって恋人が出来たことを、凛子は知らない。
「彼氏じゃなくても好きな奴とか」
「えー、いないよそんな人」
私は、恋をしていた事も、その相手の名前も、彼女にすら教えてなかった。
片想いを秘密にしていたのは、単純に恥ずかしかっただけ。
あの晩、桔平に告白をして玉砕したあとに、凛子にだけは打ち明けるつもりだった。
笑いながら慰めてもらいたくて。
それがまさかの成就になっちゃって、言いたくても、もう言えない。
「それはほんとに凛子の為に作ったの。また変なこと言ったらもう作ってあげないから」
「冗談だってば。イチゴのお弁当美味しいから、また作って」
「分かったよ。でも、たまにだよ?たまに」
今までも、おにぎりを余分に握ってあげたり、おかずを少し分けてあげたりはしていた。
凛子が今モリモリと食べているお弁当だって、彼女用なのは事実。
だけど《いつもより多く作った》のは、わざとだし、本当は誰のために作ったかっていうのも、心の中では嘘だった。
だって【あの人】と一緒に食べるなんて無理だし、こっそりと渡しても、独身の彼が手作りのお弁当を食べていたら、周囲の臆測が飛び交うだけ。
それに、食べてくれるとも限らないし。
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