小さな望み

4/21
694人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
昼休みは、会社近くの公園のベンチで、凛子と二人で昼食をとるのが当たり前になっていた。 「これさぁ、ほんとはあたし用じゃないんじゃないの?」 凛子は、箸でつまんだタコさんウインナーを空中で泳がせながら言った。 「凛子にだよ。他に誰がいるの」 彼女の台詞は想定内。 「お・と・こ」 言うと思った。 「どこの男よ。私いま彼氏もいないのに」 最近まで処女だったことや、最近になって恋人が出来たことを、凛子は知らない。 「彼氏じゃなくても好きな奴とか」 「えー、いないよそんな人」 私は、恋をしていた事も、その相手の名前も、彼女にすら教えてなかった。 片想いを秘密にしていたのは、単純に恥ずかしかっただけ。 あの晩、桔平に告白をして玉砕したあとに、凛子にだけは打ち明けるつもりだった。 笑いながら慰めてもらいたくて。 それがまさかの成就になっちゃって、言いたくても、もう言えない。 「それはほんとに凛子の為に作ったの。また変なこと言ったらもう作ってあげないから」 「冗談だってば。イチゴのお弁当美味しいから、また作って」 「分かったよ。でも、たまにだよ?たまに」 今までも、おにぎりを余分に握ってあげたり、おかずを少し分けてあげたりはしていた。 凛子が今モリモリと食べているお弁当だって、彼女用なのは事実。 だけど《いつもより多く作った》のは、わざとだし、本当は誰のために作ったかっていうのも、心の中では嘘だった。 だって【あの人】と一緒に食べるなんて無理だし、こっそりと渡しても、独身の彼が手作りのお弁当を食べていたら、周囲の臆測が飛び交うだけ。 それに、食べてくれるとも限らないし。  
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!