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『昼の、あれは何だよ』
その夜、やっぱり彼は電話を掛けてくれた。
私は、高校の頃の苦い話と、叶わなかった甘い憧れの話を、繋げて説明した。
『そうか、それを俺としたかったのか』
「うん。でも桔平を想って作っただけで、最初から凛子にあげるつもりだった。無理なのは分かってるから」
『そうだな、会社の屋上は普段立入禁止だからな』
―――――は?
「そうゆー問題?」
彼は私の不満な声を無視して言う。
『じゃあ、次の休みに弁当作って持って来い。屋上で一緒に食おう』
「―――え? 屋上ってどこの? まさか桔平のとこじゃないよね」
『マンションの屋上も立入禁止だ。違う、そんな所じゃない』
「………じゃあ、どこ」
『行けば分かる。それよりハート型とかやめろよ』
「―――え?」
焦げた玉子焼きや、ふりかけでハートを描いて怒られた妄想などは言ってない。
ただ、じゃれ合うような甘い雰囲気を伝えただけ。
なのに、
「どうして分かったの!?」
『………やっぱり。お前ならやりそうだからな。飯の上に、海苔で【LOVE】って貼るのもやめろよ。俺の歳を考えろ』
「………ねぇ、なんでそんな風に先読みできるの? もしかして、昔そうゆーお弁当、誰かに作って貰ったことあるとか?」
『ないよ。言っただろ? お前ならやりそうだって。それを想像しただけだ』
「そっか……………じゃ、タコさんは? 」
『………赤いウインナーのやつか?』
「ダメ?」
『………その程度は仕方ないか』
「ほんと? じゃあ30匹くら、」
『そんなにいらない』
「冗談だって」
私は笑ったあと、彼の名を呼んだ。
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