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「―――――屋上って、ここだったんだ」
連れて来られたのは、
デパートの屋上遊園地。
確かに屋上には違いないけど、ちょっと憧れの方向性がずれている。
「先に何か乗るか?」
幼児向けの遊具に乗り物。
彼は、わざと言っている。
「先も後(あと)も乗らないよ。ってゆーか大人は乗っちゃダメでしょ」
「そうか、子供なのは頭ん中だけか」
「―――なっ、ひどっ」
桔平は、からかい逃げして、空いているベンチに腰をおろした。
その隣に私も座る。
「はい、どうぞ」
お弁当箱のひとつを彼に渡し、もうひとつを自分の膝に置いた。
―――蓋を開けた彼の手が止まった。
それからため息をついて、私に怒った顔を見せる。
「お前………やめろって言ったよな?」
ハート型のニンジン。
ハート型のハンバーグ。
ハートに切り抜いた海苔は、ふりかけご飯の、ど真ん中。
ポテトサラダもハートに固めた。
斜め半分に切った玉子焼きも、向きを逆に変えてくっつけて、同じ形に。
唐揚げはどう頑張っても無理だった。
彩りのパセリも粉々になって失敗したから、原型のまま。
そしてタコさんは健在。
「えー? そうだっけ?」
私はイタズラな笑みで返す。
「ひとつふたつはあるだろうと思っていたが、いくらなんでも多すぎだ。それになんでお前の方は普通なんだよ」
私のお弁当は、同じおかずでもタコさん以外は至ってシンプル。
「だって、けっこう手間かかるんだよ? ハートづくしは」
「だったら俺にも余計な手間をかけるな」
「そんなに恥ずかしいなら、早く食べて?」
「………分かったよ」
桔平は、苦い顔で箸をつける。
黄色いハートが、半分になった。
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