小さな望み

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********** 「―――――屋上って、ここだったんだ」 連れて来られたのは、 デパートの屋上遊園地。 確かに屋上には違いないけど、ちょっと憧れの方向性がずれている。 「先に何か乗るか?」 幼児向けの遊具に乗り物。 彼は、わざと言っている。 「先も後(あと)も乗らないよ。ってゆーか大人は乗っちゃダメでしょ」 「そうか、子供なのは頭ん中だけか」 「―――なっ、ひどっ」 桔平は、からかい逃げして、空いているベンチに腰をおろした。 その隣に私も座る。 「はい、どうぞ」 お弁当箱のひとつを彼に渡し、もうひとつを自分の膝に置いた。 ―――蓋を開けた彼の手が止まった。 それからため息をついて、私に怒った顔を見せる。 「お前………やめろって言ったよな?」 ハート型のニンジン。 ハート型のハンバーグ。 ハートに切り抜いた海苔は、ふりかけご飯の、ど真ん中。 ポテトサラダもハートに固めた。 斜め半分に切った玉子焼きも、向きを逆に変えてくっつけて、同じ形に。 唐揚げはどう頑張っても無理だった。 彩りのパセリも粉々になって失敗したから、原型のまま。 そしてタコさんは健在。 「えー? そうだっけ?」 私はイタズラな笑みで返す。 「ひとつふたつはあるだろうと思っていたが、いくらなんでも多すぎだ。それになんでお前の方は普通なんだよ」 私のお弁当は、同じおかずでもタコさん以外は至ってシンプル。 「だって、けっこう手間かかるんだよ? ハートづくしは」 「だったら俺にも余計な手間をかけるな」 「そんなに恥ずかしいなら、早く食べて?」 「………分かったよ」 桔平は、苦い顔で箸をつける。 黄色いハートが、半分になった。
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