小さな望み

10/21
前へ
/195ページ
次へ
「賑やかだね」 「日曜だからな」 お弁当を食べながら、沢山の親子連れを眺める。 はしゃいでいる小さな子供たちに、私はふと思い出す。 「………桔平は、子供はいないの?」 「作るつもりはあったけどな、そんな間もなく別れたから」 「………どうして離婚したの?」 また《お前には関係ない》と、突き放されるかも知れない。 だけど、深い関係になってから、彼を知りたい気持ちが膨らんでいて、黙ってはいられなくなった。 「俺が頼りなかったから」 「―――え?」 「妻に裏切られた」 「裏切られたって……」 「他の男とくっついたんだよ」 「それって、不倫」 「そう、しかも浮気じゃなくて本気の」 「桔平みたいな優しい旦那さんがいるのに、なんで他の人になんか」 彼は乾いた声で笑う。 「優しいだけじゃダメな女もいるんだよ」 「そんな………」 「あいつは、俺を愛した事を後悔していた。だから最後のプレゼントに、俺から離婚届を渡してやったんだ」 「……………」 返す言葉が見当たらず、私は俯いた。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

699人が本棚に入れています
本棚に追加