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「どうした? 別に珍しい事でもなんでもない。それに、とっくに終わった話だ。イチゴが落ち込む事はないだろう?」
「………でも」
下を向いたまま口を開く。
「………桔平が可哀想で」
「………え?」
「……私…恋愛経験ないから、結婚するほど愛し合えるとか、羨ましいけどよく分からないし、色々あるから離婚しちゃう人もいるんだろうけど………可哀想だと思った。桔平が」
「……………」
「私なら、一度愛した人を裏切ったりしないのに」
「―――イチゴ、顔を上げろ」
「……ん?」
目が合った時には唇が近付いていて、そのまま重なった。
急な展開に脳が対処しきれずに、私は石のように固まった。
長い長い口付けが終わると、
「こ……ここここんな所でキス!?」
小さい声をぶつけた。
「ごめん、急にしたくなった」
「急にって、急すぎるよ。―――ビックリした」
「……………お前が愛しい」
今にも泣きそうな瞳で私を見つめた。
その声にも、彼の寂しさが混じって聞こえる。
愛しいと言われても、何故か喜べなくて、私自身が寂しくなった。
桔平が私に過去を語ってくれたのは嬉しいけど、でもそれは彼の人生の中の、ほんのひとかけら。
「………ねぇ、桔平。離婚してからまともな恋愛もしなくて、遊びまくってたのは本当なの?」
「ああ、そうだよ」
「女の人に酷い扱いしてたってのも?」
「本当だ」
「だったら、今はなんでこんなに優しいの?」
「だからそれは、」
「私の前にいた、本気で愛してた人と何か関係があるんじゃない?」
「……………」
やっぱりそこは言いたくないんだ。
桔平の全てを知りたいなんて、私は贅沢なんだろうか。
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