小さな望み

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*********** せっかく桔平が叶えてくれた小さな望みを、私は気まずい空気で終わらせてしまった。 でも彼は屋上から下りると、その雰囲気を微塵も感じさせないように、私と手を繋いで言った。 「ここまで来たんだから、色々と見て回ろう。欲しい物があったら遠慮なく言えよ、なんでも買ってやるから」 「え? そんないいよ、ここの中のお店どこも高そうだし、私そんなつもり全然ないよ?」 「気にするな。弁当のお礼だ」 彼は、足の進まない私の手を引っ張った。 どのテナントショップも、有名なブランドばかり。 バッグもアクセサリーも靴も洋服も、私の作ったお弁当に見合う物なんて、こんな高級店になんか売ってないよ。 さんざん歩き回った結果、 「本当になかったのか? 」 「うん、ごめんね、欲しいって思う物が見付からなかった」 それは嘘。 実は、たったひとつだけ、すごく気に入った商品があった。 けれどあの値段を見た上で、おねだりなんか出来やしない。 「そうか、残念だな。イチゴに何かあげたかった」 「ありがとう。その気持ちだけで十分だよ。それより私、歩き疲れちゃった」 「じゃあ、それそろ帰ろうか」 「うん」 桔平は駐車場まで、ずっと手を繋いで歩いてくれた。 それも自分から私の体を寄せて。 嬉しかったけど、周りが気になる。 こんなところを誰かに見られたら、言い訳が通用するとも思えない。 けれど、私にはもっと気になることがあった。 桔平は時々、すれ違う女の人を見ている。 どうも無意識に目が向いているようで、お店を回っている時も、それ以前に食事に連れてってくれた時も、そうだった。 しかも彼がつい見てしまう女の人には、必ず共通点があるように感じた。 だいたいの年齢、服装、髪型、雰囲気。 それらがみんな似ていると。 ……………似てる? 誰に? 何となく予想はついたけど、それを彼に訊いたことは一度もなかった。 桔平の心の中に保管されている【その人】のイメージが、私の脳内で具体化してしまうのが怖かったから。  
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