霧雨の降る中で

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人は時として幽霊なんかよりずっと恐ろしい。いや、人以外に怖いモノなんか無いのかも知れない。 「DVされたい」なんて妄言を吐く人もいるけれど、大抵は恐ろしいと思っているし、そこから逃げられない自分を責めてもいる。一つ言っておきたいのは、そこからは出られるよ、ということだ。 DV被害者に潜在的な欲望があるんじゃないかなんて責めるつもりは全くないので誤解しないでほしい。被害者であって保護されるべきだ。 僕の知っている範囲で「怖いな」と思ったことを書いておく。 手首を折られた子がいた。その子は「階段から落ちた」と医者に説明した。素直に説明すれば事件性があると判断されて通報される。 事実を捻じ曲げてでも守ろうと思ったものは「それでもかろうじて維持できている日常」だろうか。「彼」が機嫌のいい時には溢れるように振りまく愛情だろうか。 「もう少しで目玉が飛び出る所でしたよ」と医者に言われた子も居た。顔面の骨をある程度損傷すると眼球が支えきれず飛び出してしまう。 その子は「転んでテーブルにぶつかった」と説明した。 実際にはテーブルを振り回されて顔に大損傷を受けていた。 洗脳だろうか。恐怖を通してしかリアリティを感じられないのだろうか。「殴られるほどに本気で愛している」と、仮にでも思っているのだろうか。 僕には判断ができない。これは恐怖について書いた文章であってそれ以上の事は書けない。 いじめもあるだろう。そうやって少しずつ恐怖の坂を降りていく誰かが死を迎えるのが、僕には恐ろしい。今この瞬間にも、だ。誰かが嘲笑されながら闇の中へ降りていく。 静かに。真夜中の海に雨が降るように。 誰もいない暗い石畳の風景が見える。そこを歩いていけばいずれ破滅すると分っていても、ついそんな道を歩いてしまう経験は誰にでもあるのかも知れない。 僕だって例外じゃないかも知れない。 励ましも説得もノイズにしか聞こえない静かな石畳。霧雨は止むことがない。 誰でも陥るかもしれないその場所が、僕には途方もなく怖い。
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