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01 - 主国シヴァスの南海に
主国シヴァスの南海に浮かぶ島シールは、島の中心にそびえるアダナ山を水源とする潤い豊かな地である。
しかし、近ごろ山のふもとで魔に属するものたちの姿が多くみられるようになった。
島長はシールを属領とするシヴァスに助けを請い、その願いは聞きとどけられた。
**********
「まさか、マラティヤご自身に来ていただけるとは」
シールの島長は偏屈そうなこわもてを珍しく紅潮させて言った。
「シヴァスにマラティヤがお生まれになったことは、このような辺境でさえ知れわたっております。同じシヴァスの民としてこれ以上の誉れはありませんが、よもやこの目で拝見できるとは」
「シールが辺境とは過ぎた謙遜です。ここは質の良い水に恵まれ、緑も豊かですばらしい島ですから」
答えたのは〈マラティヤ〉と呼ばれた青年である。
島長は親子ほども歳の離れた彼をふりあおぐようにして見た。
深い湖に似たエメラルドの髪と琥珀色の眼が印象的な青年は、相対する者の襟を正させるような覇気がありながら、すべてを包みこむ鷹揚な雰囲気をもっている。
それは、彼が大地の紋章をもつマラティヤだと島長に納得させるのにじゅうぶんだった。
「あなたは地属の加護をもっておられるので、開拓があまり進んでいないシール島の自然は心地良く感じられるのかもしれません。とはいえ、最近は島民もろくに外を出歩けぬありさまなのです」
「話は聞いています。アダナ山のふもと以外に魔属はでていないのですか」
「はい。以前はほかの場所でも民が襲われていましたが、このところ奴らが出没するのはもっぱらアダナ樹海に集中しています。しかしまれに村近くまで近づくものもあり、村の者たちはおびえて畑仕事にもでられません」
「夕暮れまで時間があるので魔属が樹海からでないよう、これから結界を張りにいきます」
馬と舟の長旅で到着したばかりの青年は、しかし疲労の色もなく立ちあがって島長を安堵させた。
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