終わりへの鐘

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3. 誰かが手に触れている。 進一は掛け毛布の上に投げ出された左手の甲に暖かな熱を感じた。 薄く目を開けて手元に視線を巡らせる。 ベッドの横に椅子を置いて腰掛けているのは。 女、か? 「た、れ」 「言葉も出なくなったの?進一」 一瞬で脳が覚醒する。 ぼんやりしていた視界がはっきりするにつれ、自分の手に触れる女の姿に懐かしさで胸が詰まる。 変わらない。いや、変わったか。 別れた時、お前はまだ26だった。 今、目に映っているのは決して若くはない女。 「冴子か」 「出るじゃない」 冴子と呼ばれた相手がふっと笑う気配がした。 「なぜここに?」 「さあ。何故かなあ」 「誰かの見舞いか?それともお前、どこか悪いのか?」 「さあ」 冴子は本気で解らないようだった。 首をかしげ、右の人差し指でこめかみを押さえている。 昔から変わらない癖だが、進一は違和感を感じた。
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