終わりへの鐘

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「でも一番の男は貴方よ。多分」 指を握りしめたまま彼女が呟く。視線が頬に当たっている気配がするが、進一は気づかない振りをして天井を見つめた。 ーーお前、勝手だな。今も昔も。何一つ変わってない。そうやって周りを掻き回すんだ。俺も、他の男たちも。母さんも、何もかも。 結婚式の日。 白無垢は嫌だとごねた。これが着たいと譲らなかった。冴子は口にこそ出さなかったが、深紅の絹地に白芍薬の打ち掛けが冴子の思いの全てを表していた。自分は進一の妻にはなるが家の嫁にはならない。誰が家風に染まるものか…… 元々進一は自分の意見をゴリ押しする性格ではない。一生に一度のこと、冴子の気の済むようにと受け入れた。 思えばそこから既に歯車が狂いだしていたのかも知れない。 事実、世間は進一ほど寛大ではなかった。 お色直しならともかく、神前で色打ち掛けを着る。 そんな冴子を、それを許す進一を、彼の母の、親戚達の眉をひそめさせた。 変わった嫁、派手好きな女。そんな噂が近所に広まるのもあっという間だったに違いない。 婚礼の日は今時珍しいくらいに見物人が多かった。窓の中からではあったが。 冴子が家に入ったその日から、二人の衝突は始まった。     
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