終わりへの鐘

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仕事を続ける冴子に対して、更に母は怒りをぶつけた。 『たかだか化粧品売りの癖に』 それが母の口癖となった。 冴子は口答えはしないものの姑の目をまともに見ることはなかった。 当然夕食はバラバラに済ませ、進一はその時席にいる方と食事をした。母と座れば妻の悪口を聞き、妻と座れば進一が口を開かない限り沈黙の中での食事。運悪く三人になると母の罵りと妻の沈黙の板挟みになる。 『偉そうな台詞は、跡継ぎを産んでから言って頂戴ね』 最後には毒を吐いて立ち去る母に冴子が返事を返すことはなかった。 女達が争う様を見る事に苦痛を感じるようになった進一は、次第に帰宅が遅くなっていった。 その内冴子の帰宅も遅くなっていった。母は冴子の浮気を疑い、進一に確かめるよう迫った。が、あえて進一は理由を詮索しなかった。進一は冴子の仕事が立て込んでいるんだろうと推測していたが、母は、進一の声を頑として受け入れなかった。 ずるずると日が経つに任せたある晩。 珍しく日付の変わる前に帰宅した進一は玄関の三和土(たたき)に転がる冴子を見て驚愕した。 「この淫売が男の車で家の前まで乗りつけてきた」 喚く母を、まあまあと腕にかばいながら進一はリビングに向かった。     
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