終わりへの鐘

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母が落ち着いた頃合を見計らって夫婦の部屋に戻った進一は冴子がベッドの中にいるのを確認して安堵した。 よかった、というのが本心だった。その反面、つい今し方押し殺したばかりの、ぐずぐずと煮えた感情がまた湧き上がってくるのを感じた。 聞くべきか?いや、信じているなら……だが、母は見た。いやしかし…… 進一がドアの入り口で悶々と考えを巡らせている間、冴子は静かだった。寝息1つ聞こえてこない。 「大丈夫か?」 と声を掛けたが返事はない。 ベッドに近づいて羽布団の膨らみにそっと手を置いてみたが、反応は無かった。 まだ寝るはずはない。 ーー狸寝入り、か。 進一はため息一つつくとネクタイに指をかけた。 黙々と着替える間も、ピクリとも動く気配は無かった。 ーー仕方ないだろう、母さんの機嫌取りも必要だ。なんでそのくらい解らないんだ。 自分に対する妻の仕打ちが理不尽な気がして次第に腹が立ってくる。 着替えが終わると洗濯物を持って下に降りた。 洗濯機に手のものを放り込むとそのまま台所に向かい冷蔵庫からビールを取り出しプルタブを空けた。 ーーまあ、明日になって落ち着いたら、話を聞くか。 とにかく空腹を満たさないと。冷蔵庫には母が作った茄子の煮浸しが入っていた。 進一は暖めることもせず食卓に置いた。
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