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4.
青天の霹靂。
いや、むしろ予定調和、か。
次の日の深夜。
疲れでかすむ目を擦りながら寝室のドアを開けた進一を待っていたのは、冴子ではなく離婚届の用紙と、彼女の実家の住所が書かれた封筒だった。
それを見た瞬間に進一の口から自身でも驚くほどの笑い声が噴きだした。
けたたましい笑い声に驚いた母が階下からしきりに安否を尋ねたが進一は敢えて無視を決めた。
暫くそこにいた母が諦めて部屋に戻った頃、ようやく進一も笑いを収め、ベッドに転がった。
ベッドの上で目に手を置き、乾いた唇を舐めた拍子に煙草が恋しくなった。
この家では進一は煙草は吸わない。母が嫌うからだ。
ハンガーに掛けたスーツのポケットには常に携帯灰皿と煙草が入っていた。
起き上がってスーツのポケットから煙草と灰皿を取り出し、再びベッドサイドに腰掛けた。
フィルターを通して煙を肺に満たす。
いつもと違って肺が焼けるような気がした。
ーーせめて事情だけでも聞きたい。
進一の思いは行きどころがなく、置き火となって胸を燻らせた。
なんで解ってくれない?いや、解っていて取った行動か?
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