終わりへの鐘

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5. 「ああ、やっと見つけた。探しましたよ」 紫の上着に白いパンツを履いた女が自分を見て早足にやってくる。 この人は誰だろう? 冴子は自分の手をぐいぐい引っ張って行くこの女に見覚えはない。いや、見た気もする。 周りを見渡せば同じ服を着た女があちらこちらにいる。男もいる。同じ形をしているが男が着ているのは紺色だ。 白衣を着た男女もいる。これを着るのは理科の先生、科学者、研究員。そういえば化粧品開発ラボには沢山の研究員がいた。それから……お医者様ね。 よく見たら同じようなパジャマを着た老人や車椅子に乗った若者が、テレビの前や廊下でぼんやりしている。 さっきも見たかもしれない。多分見ているのだろう。最近の私は特に忘れっぽいから。 ふいに青臭い匂いが冴子の鼻をくすぐった。 それは草の匂い。 子供の頃に道端でちぎって遊んだタンポポやヒメジョオン、昔蓬(ムカシヨモギ)荒地草(アレチグサ)。ちぎって揉んで踏んづけて。膝をすりむいたら、薬替わりに当てて。 ああ、と納得したのは給湯室から花器を手にした老婦人とすれ違ったから。 花を生けていたからか。 茎や余分な葉をちぎったのだろう。その匂いが鼻をくすぐったようだ。     
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