終わりへの鐘

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冴子が視界に入った途端、頬が緩む。 「どこ行ってたんだい?」 後見人、とは違うと思う。昨日今日の知り合いじゃない。この人は見覚えがある。 男はいそいそと立ち上がり、看護師から冴子を奪い取るように腕の中に閉じ込めた。 「それじゃ入院の手続きを」 冴子を隣に座らせ軽く腰を引き寄せる男の仕草がまるで夫のようだと感じたのは、どうやら冴子だけでなく看護師も同じのようだった。 薄い苦笑いが口元に浮かんでいる。 冴子にしてみれば、今更どうでもいいこと、だ。 ……疲れた。 そのまま彼の肩に寄りかかって目を閉じた。 煩わしいことはこの人に任せておこう。 以前に、それでいいと言われたような気がする。瞼を閉じていると、お馴染みのあの声がまた頭の中を木霊していく。 『この淫売』 それなのに何故だろう。 そのお馴染みの声が、今日はなんだか負け犬の遠吠えのように聞こえる。
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