終わりへの鐘

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「診察の際に主治医から説明はあったかと思いますが、書類にサインを頂く際に書類の確認と読み合わせをしますので。」 看護師の指が何枚目かの資料を抜いてテーブルの上に置いた。 冴子の目が読むとも無しに文字を追う。 そこには『前頭側頭型認知症』と書かれていた。 「この病気は進行性で患者様の場合、現在は中度にいます。重度になるのも時間の問題でしょう。今も立ち去り行動をされていましたが、目を離した隙に反社会的な、具体的にいうと万引きとか割り込み、往来での排泄行為とかですね。そういった行動が出る場合があります。」 「承知してます。その為の後見人ですから。」 男がポケットからキャンディを取り出す。冴子はすかさずそれを奪い取り、そのまま口に放り込もうとした。 「冴子、包みを剥かなきゃ」 冴子の手をそっと押さえ、取り上げないようにしながら器用に中身を口に放り込んでやる男に、看護師は不気味なものを感じながらも説明を続ける。これは仕事、と言い聞かせながら。     
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