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6.
がさごそと耳障りな音が意識を戻すきっかけになった。
進一が薄目を開けると、俊子が冷蔵庫にジュースを詰め込んでいる。来客用のだと思われるが、進一にはおかしかった。
もうすぐだ、もう間もなくなんだよ、俊子。
お前は俺とこんなに長く一緒にいるのに気づかないのか?
進一は笑いたかったが、頬はピクッと痙攣を起こしただけで口角はあがらなかった。
「あら、起きたの?」
俊子がベッドの脇に来て、腕に触れた。
「触るな!」部屋中に響き渡る大声に、俊子の手が勢いよく引っ込んだ。
今しがた笑うための表情筋は動かなかったのに、自分でも驚くぐらいの声が出た事に進一自身が面食らった。
「あ、すまん。……痛いんだ」
「さっきまで声出なかったのに、よっぽど痛いのね」
俊子なりに解釈したらしい。
進一から離れると冷蔵庫のエナジードリンクを取り出して横飲みに移し替え始めた。進一にはもう飲む意欲などないが、俊子はその事には全く気付く気配がない。
「いいのよ、ゆっくり休んで。
本音を言うと嬉しいのよ私。長く夫婦で居るけど、二人でいる事なんてほぼほぼ無かったでしょ。この一年ばかりは私が貴方を独り占めしてる。だから頑張って病気に勝ってね。」
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