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進一は幻聴が聞こえたのかと思った。
初めて聞いた妻の本音。
この母とよく似た妻が、結婚してから今まで一度も好きだの愛だのを語ったことのない女が、自分の傍にいて嬉しいと言った。
「それは……」
俺を愛しているということなのか?
進一の続かない言葉の続きを俊子はくみ取って答えた。
「だって、子供も設けた夫婦なのよ、私達。愛情がなかったらあのお母さんの元でやっていけるわけないじゃない。」
照れたように言葉を紡ぐ俊子の顔が今一つ霞んでよく見えない。
進一はもしかすると今まで俊子という女を誤解していたのかも知れない、と感じた。
俊子が年の離れる自分と結婚したのは全ては打算だと思っていた。何故なら彼女は進一と結婚することで、一定の地位を手に入れることが出来たからだ。
名家の嫁、高学歴の夫、有名私立に通う子供、その学校の役員、地元の奥様連の中でも、上位に位置する社長夫人。いわゆるセレブリティという所か。
俊子は女と言う性を最大の武器にし、また享受する。それは母に通じるところがあった。冴子が最も忌み嫌ったものだ。
「あの日あの家で貴方に会った時から、私は貴方しか見ていないわ。」
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