終わりへの鐘

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医者に流産を告げられた冴子はショックと酷い立ち眩みのために結局会社を休んだ。自宅に戻ると、姑に客が来ていた。三和土に見慣れない灰色のローファーがある。 珍しく明るい笑い声を立てる姑を訝しんでいると、客と共に玄関に出てきた。 「あら、帰っていたの」 「只今帰りました」 「丁度良かったわ。はい離婚届」 何時から持っていたのか、しわくちゃになった薄い紙を冴子の目の前でひらつかせた。 「な、んで」 「あら、だって法律で重婚は認められないじゃない?そんなところにいないでこっちにいらっしゃい。 こちら俊子さんと言うの。」 軽い世間話でもするような口調で姑は後ろに控えている若い女を冴子に紹介した。 「初めまして、俊子です」 「この家の嫁になってもらうのよ。元々進一はこの方と結婚するはずだったのよ。ねえ、俊子さん。」 「はい、御義母様」 二人が示し合わせたように笑いこける。未来の嫁姑と言うよりは年の離れた姉妹のように、顔も髪形も着ているものもよく似た二人に冴子は目眩を覚えた。 冴子はもう何も言うつもりはなかった。 その後の記憶が曖昧だ。確か一度は進一が迎えに来て、両親にも諭されて家に戻った、と思う。 その両親も冴子の離婚直後、相次いでこの世から去って行った。 確か離婚した後も何度か勤め先で見かけたわ。 役付けで配属されたデパートの化粧品コーナーは常に人不足だった為、冴子もよく化粧部員として立っていた。 どこから聞きつけたのか、わざわざ隣の市まで出掛けてくるぐらいだから、当てつけの意味合いがあったのだろう。 そう、あの時彼女は子供を抱いていた…… 冴子の脳内でくるくると場面が切り替わる。 子供はまだ生まれて幾ばくも経っていないようだった。見ないふりをしながら目で彼女を、いや赤ん坊を追いかけた。赤ん坊は開くこともおぼつかないような小さな手を必死に動かして母親の口に伸ばしていた。 天涯孤独。 その言葉が冴子の耳を目を心臓を抉った。
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