終わりへの鐘

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そうそう、だからこの部屋を出なくちゃいけなくて、今日はその日で、この人が迎えに来るまで煙草を吸っていて、でも鍵は無くしちゃいけないから……。 鍵。そういえば。 スカートのポケットを探る。 「これ?」 「預かっておく」 どうぞ。もう私では管理できない。 多分大事なものは全てこの男に渡しているんだと思う。私の大事なものは全て。多分。 「今日も綺麗だね、冴子。君は真っ白のブラウスが本当によく似合う。」 「ありがとう。」 自分の趣味ではないと思うふわふわのブラウス。起きたら布団の横に花柄のスカートと共に置いてあった。 この男が用意したのかも知れない。 それにしてもこの男、誰だろう。 ボストンバッグを掴む男の手を見て唐突に夕べ着替えを詰めていた自分を思い出す。 荷造りは自分でやった、だけど。 どこへ行くんだっけ? 思い出せない。ほんのさっきまで覚えていた気がするのに。 ふいに抱き寄せられ、口を押し付けられた。 嫌だと思う間もなく隙間から舌が捩込まれる。 ヌメヌメと歯列を舐められ、噛み合わせを舌で割られた。 耳の奥でクチャクチャと音がする。 「もう離さないよ」 一旦舌を離して瞳の奥に鎖を投げてくる。 なんでもいいけど、玄関先は困るなあと冴子は眉を潜めた。そんな冴子の気持ちなどまるでお構いなしの男は更に舌を突っ込んで呼吸すら苦しくなってくる。     
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