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その女がここにいる。
ということは。
俊子がエレベーターに乗ったのを確認してから、ひとつひとつ部屋の前に張られたプレートを確認していく。
懐かしい名前を。
愛しいあの人を。
あった。
ここだ。
引き戸をそっと開ける。
入り口の仕切りカーテンが風で揺れた。
愛しい人が静かに横たわっている。
窓が開いているようだ。
カーテンが揺れる度、彼の顔に柔らかな光があたる。
「進一……」
進一の胸の辺りに白くてぼんやりしたものが見える。それに冴子はなんとなく思い当たった。
あれは、私達の子供ではないかしら?
白いものの一部が進一の顔に伸びていく。
彼はもう長くないのか。あの時の流れてしまった子が進一を迎えに来たのかも知れない。
なら、私も一緒に連れて行って。
冴子は磁石に引かれるネジのように、ベッドに近づいた………。
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