終わりへの鐘

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いいじゃないか、いい人生だった。家業を継いだとはいえ、それなりに名の通った自分の会社、家族に残せる財産もある。まあそれなりに優しい妻、まだ学生の身だが、そこそこ出来のいい息子。 自身の病気が発覚してからこの方、息子に会社を継がせるべく学業の傍ら会社の方にも顔を出させていた。まだまだ子供だが自分に出来ることの精一杯はやったつもりだ。あとは弁護士と親戚連中に任せておけば、自分が死んだ後も特に不自由もなく生きていけるだろう。 だがこのところ。 進一の胸に時折チクリと刺さる棘がある。 最初に感じたのは廊下を歩く見舞客がたてるヒールの音が耳に入った時。 少し体調が良かった進一はベッドを起こして新聞を読んでいた。音が耳を掻きむしった瞬間、進一の頭に血が上り、手に持っていた新聞をぐしゃりと握りしめた。 次は喫煙ルーム。車いすで検査に向かう途中、中で煙草を吹かす若い娘を見て吐き気を覚え、看護師を慌てさせた。 その後もことある毎につきんと痛む。 その内、麻痺してきたのか、痛みが走っても知らぬ振りでやり過ごせるようになってきた。 だからといってイライラすることには変わらないのだが。 ついさっきも。 ナースが検温に来た時、彼女のまとめ髪からむき出しになった襟足に目が吸い寄せられた。 後れ毛がにじむ汗でうなじにへばりついている。     
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