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鼓動の早いからだをなだめるように、うなじに手のひらをあてがいとんとん叩くと、南は「うう」だか「んー」だか、理解したのかしていないのか判然としない唸りを洩らし、枕の下に腕を突っ込んで翔太の頭ごと強く抱き込んだ。
南のからだにはじんわり汗がにじんでいて、首筋から牛乳みたいな甘ったるいにおいがする。翔太を安堵させる生きているからだ。
手のひらを首のうしろから背中まで滑らせる。心音よりずっとゆるやかなリズムを意識してぽんぽん叩き続けていると荒熱が冷めていくような…きつい炭酸が抜けていくような、穏やかな鎮静を着衣ごしに感じた。
もう、このまま眠ってしまうのかもしれない。
からだにかかる重みがまし、その重みがひどく心地いい。
「会いたい」、「さみしい」、「一緒にいたい」
全部「やりたい」と同義だと思っていたけれど、今何もせずにこうしているだけで、自分でも信じられないほど穏やかで満ち足りた気持ちになった。
その充足と静寂に、普段思い出さないようにしている昔の光景がーー子どもの頃の自分の姿が嫌がおうにもよみがえってくるのだった。
年月の経過と共にぼやけうすれていくふるさとで過ごした日々の思い出の中で、決してこれだけは死ぬまで忘れないないだろう鮮明に焼きついている一夜の記憶がある。
十の時、
父親が仕事で家を空けた雪が降ってはやみを繰り返す、冬の深夜。
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