310人が本棚に入れています
本棚に追加
ベッドで仰向けに転がって、見慣れた白い天井を眺めながら翔太は南を待っていた。
ーー遅くねーか…
ローテーブルに置いた携帯に手をのばし時間を確認すると、コンビニで電話を切ってからもう一時間以上経とうとしていた。
玄関の鉄製扉がぎいっと開かれる重々しい音がして、それまで張っていた気持ちがゆるりとたわんだ。リビングまでの短い廊下をばたばた走ってくる騒々しい足音が近づいてきて、翔太は腕に力を込めてシーツから背を離し上体を起こす。
扉を勢いよく開け放ち転がるように駆け込んできた南と対峙した。
片手にこんもりと膨らんだ白いビニール袋を下げていて、その口の部分からは葱やらなにやら、翔太にはわからない野菜の葉が飛び出していた。
目が合うと、南はそれを部屋の片隅にむかって荒っぽく放りなげ、翔太をぎょっとさせる。ぐしゃりと何かが激しくつぶれた音が部屋に響いたが、南はそんなことお構いなしに、一歩、二歩、と助走をつけるようにして床を踏み込んだ。
こっちに飛び込んでくる気だとわかり反射的にうっとからだを固くし身構える。
南は翔太の投げ出したままの足を踏みつけることなく、腰を膝立ちで跨ぐ体勢で着地した。
跳躍の勢いを受け止めた、安物のベッドのスプリングが悲痛な軋み音をあげて沈み、押し返す反動で激しく揺れる。
ここまで辿り着く道のりの、いったいどの地点から走ってきたのか南はぜーぜー息を切らしていた。ベッドの揺れが静まってもまだ呼吸は整はない。肩で息をしながら、声が発せないのをもどかしそうに、しばらく翔太を見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!