猟犬

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南の着衣に染み込んだ冷たい外気がひんやりと翔太を包む。熱い吐息と相まって部屋の中に放散されていく。 今夜空にない月が人に姿を変え現れたなら、きっとこんなふうかもしれない。そんなことを思った。 氷に触れて火傷するような、熱と冷気が混合する南の視線に気圧されて力が抜け、かくりと肘が折れる。 後頭部が枕に沈むとそれを追いこむように南が身を乗り出した。ばふっと枕の両脇を押さえつけるようにして翔太の顔の両横に手をついて、聞く。 「ねぇ、さみしかった?」 狩を覚えたばかりの幼い獣のように、生まれたばかりの刃物を砕いて散りばめたみたいなきらめきをその瞳に宿して。れいにならいあの完璧な角度で首を傾げる。ーーねぇ、さみしかった? 黙ったまま見上げている翔太に焦れ、目を細め、そして、 「さみしかったよね?」 今度は誘導気味に尋ねた。 「寂しいとか…俺が言うと思ってんのか」 たとえそんなようなことを思ったとして、それを言葉にし伝えるなんて考えられなかった。しかも八つも年下相手に、ありえないだろ。 「じゃあお腹は空いた?」 「それは、まぁ…」 「俺も。あとでなんか作ってあげるね、遅い時間までやってるスーパー探して材料買ってきたんだ」 誉めてといわんばかりに部屋の隅に目を向ける。 壁にぶつかり床でひっくり反っている白いトレー、四方八方に転がった芋、にんじん、でかくて赤いピーマン。 透明なパックの隙間から黄色い液体が滲み出ている卵はさっきの無惨な音からして、もう全部割れてしまっているかもしれない。 あのエスカレーターで、フラミンゴみたいに片足をあげ、買った食材が斜めになることを嫌がり几帳面に並べて変えていたのは何だったのか。誰だったのか。今はまるっきり頓着していないようだった。
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